トマト映画における、映画的メタフィクションの構造とニチアサキッズへの悪口を添えて

CPC(クレイジー・サイコ・クラブ)首謀者のCamille☆です。
以前に外部ブログの方に書いていたものを少し書き足しをしまして、こちらのサイトにリメイクしました。

=======================================

 

あなたは、キラートマトはご存じか?
遊戯王のカードではなく、映画の話である。

一度聴くと、脳に強制インストールされ、死ぬまで忘れられない恐怖の主題歌で有名な
「アタック・オブ・ザ・キラートマト」
不朽の駄作とも言われ、世界三大クソ映画の1本にも数えられるこの業界の看板みたいな作品だ。

しかし、このクソ映画の話を知りたければ、あっちこっちのクソ映画レビューサイトでクソ真面目にレビューされてるし
Wikipediaにも記事があるんだから、知りたい人は他所で観てくれればいい。

ウチで扱うキラートマトは選りすぐりの有毒工場廃液で純粋培養された新鮮な逸品である。

最近は、国内でもBlu-rayが発売されて、観ることが容易になったが、それでもまだWikipediaの日本版には個別記事が無いうえ
レビューは「バカ映画」だの「あのキラートマトの続編」「若いころのジョージクルーニーが出てる」といった程度。
この素晴らしい映画の、芸術的側面に誰も触れていないのである。

誰もやってないなら、僕がやる。
前置きが長くなったが、今回はこの不朽の駄作の続編「リターン・オブ・ザ・キラートマト」を分析していきたいと思う。

この、「リターン・オブ・ザ・キラートマト」はバカ映画と言ってしまえばそれまでの、ジャンルとしては「コメディ映画」である。
だが、コメディというジャンルで誤魔化されてはいるが、メタフィクションの構造としては非常に良くできた構成で見事なまでの伏線回収がされている。

ここから先は、ネタバレ・・・と言うか、本編を見ていないと何のことやらさっぱりなので、鑑賞していただく事をお勧めする

まず、「リターン・オブ・ザ・キラートマト」は、冒頭の数分間の中にエンディングに向けての大きな伏線が仕込まれている。

この作品の凄さの中に「あまりにもバカバカし過ぎて、そんなことすっかり頭から消えてしまう」と言う本来であれば、絶対に起こりえないトリックが仕込まれているのだ。

物語を追いながら、解説をしていこう。

●冒頭

TV番組のセットから物語は始まる。
「1ドル映画劇場」どうやら、この映画は「映画を放送するTV番組を見ている」という設定で進むらしい。

この時点でメタい。

この番組も、いわゆる「午後のロードショー」的な超大作でもない映画を定期的に放送しているような、我々ボンクラが好きそうな番組だ。(筆者は関西圏の人間故、午後ローがどのような番組かは存じ得ないが、おそらくは日曜の夕方に「ミナミの帝王」をやってる時のような感じなのだろう)

この「1ドル映画劇場」、番組放送中に電話がかかり、キーワードを言えば賞金がもらえるという視聴者参加型のプレゼント企画をやっているのだ。
まるで、「おはよう朝日です」「テレフォンQ」もしくは「ワイドABCDE~す」の終盤の「キャッシュかティッシュ」のコーナーを彷彿とさせる。

発表されるキーワードは、日常的によく使うあの言葉 「THE」
この辺の、日常的によくある番組風の、よくある部分をわざわざ映画でやるバカバカしさ。しかも、ギャグとしてそんなに面白くないという二段構え。
本日放映するのはコレ!「リターン・オブ・ザ・キラートマト」ようやくここにきて映画の話だ。
なお、この時に紹介されるポスターが、前作「アタック・オブ・ザ・キラートマト」の「アタック」の上からシールを貼って「リターン」にしているだけのおもんなさ!
いよいよもって、本編が始まる前から不安になる展開である。

解説のおっちゃんがポップコーン片手にソファに座り、「さぁ、始まりますよ」と映写開始!
きっとコレが定番のスタイル何だろうなと、初めて観るのにレギュラー番組感がヒシヒシと伝わってくるのです。

カウントダウン後に始まる映画。映し出されるビーチ。
ビキニ姿のお姉ちゃんたち。
突然脱ぎ捨てられる水着。

タイトルコール「トップレス・ビーチ」

おい!

ツッコミを入れそうになったその時、上映スタッフのヒソヒソ声が聞こえる
「おい、これ先週放送したぞ・・・」「おもしろかったから良いじゃないか」
しかし、苦情が入りやり直し。

映し出される謎の屋敷。

怪しげな実験をする博士。

謎の化学薬品に漬けられたトマトを、謎の装置に入れ音楽を聞かせると、なんとトマトが人間になる。
この博士は意のままにあやつれる人間をトマトで作れてしまうのだ!

くっだらねぇが、冒頭の茶番のお陰でこのくだりが非常に普通の芝居に見えてしまう。

●オープニング

映像は前作のおさらい。タイトルの「アタック」は手書きで「リターン」に変えただけ。
音楽は少しハード調になり、シリーズでもトップクラスにカッコいい!

前作はココ見れば大体何があったかわかる。

ここまでの時点で、エンディングまでの伏線がいくつか散りばめられているんだけど、
あまりにもくだらなすぎるギャグのせいですっかり「1ドル映画劇場」のことは忘れてしまっていることだろう。
なんなら、オープニング曲を聴いてるうちに、「トップレス・ビーチ」の事も記憶から消えてるんじゃないだろうか?
だとすれば、もうすっかり策中にかかっているのである。
さらに、上でも書いたが、「悪い博士がトマトを人間に変えて悪さをする」世界観の説明もすっかり入ってしまっているだろう。
ココからしばらくは、世界観の説明が続く。

まず、舞台設定。

・前作の「トマト大戦」以降、トマトは違法野菜として全米で禁止されている。

・前作の主人公フィンレターは大戦の英雄となり、今は引退してピザ屋を経営。

・今作の主人公はそのピザ屋で働いているフィンレターの甥っ子のチャド(アンソニー・スターク、裸の十字架を持つ男にも主役で出ていたね!)

・その親友のマット(ジョージ・クルーニー、ご存じバットマン!)

・チャドは博士の助手をしている謎の美女タラに恋している。

・マットは、良い奴だが今風のチャラい奴

これらが一連の流れでわかる。

導入としてはわかり易い。
このマットが良い奴だがいい加減な奴として描かれる初登場シーンで、ピザ生地を広げている。
生地を画面外まで放り上げた後、落ちてこないというベタなギャグが描かれる。

大戦後、トマトを知らない若者たちは、トマトの恐ろしさを知らないのだ。と、語るフィンレター
前作の映像をふんだんに使い、説明してくれる。

ここまで20分弱、オープニングを含めれば半分くらい前作の映像である。
低予算映画の見本みたいな作り方である。

●博士、新たな実験をする。

しかし、実験は失敗ミュータントの毛むくじゃらのふわふわトマト「FT」を生み出してしまう。

このFT、Blu-ray版では「ふわふわトマト」と言われているが、VHSでは言語と同じく「ファジートマト」中々に上手い訳だと思う。

失敗作を捨てる博士。
しかし、タラはその失敗作FTを連れて博士の元を脱走する。
博士以外に知る人間は、ピザを届けてくれるチャドしかいない。
チャドと生活をはじめ、お互いにひかれあっていく二人

ここまで、普通の話過ぎて、普通に見入ってしまうが、チョコチョコ悪ふざけが入るので安心してほしい。

●FTの存在が引き起こす悲劇

タラとの生活がしばらく続いたとき、FTの存在がチャド達に知られる。
危険とされているトマトを問うチャド。犬だと誤魔化すタラ。面倒だから犬でいいと言うマット
険悪になる二人。
一体どうなるのか・・・

二人に割って入る謎の男。
そう、この映画の監督「ジョン・デ・ベロ」本人だ。

カメオでも何でもなく、本当に監督が出てくる。
このシーンまでで予算が無くなってしまったので、ここで映画は打ち切りだという。

この急展開、誰が予想できたであろうか?

低予算映画であることを、冒頭から知らせるかのように、前作のポスターにマジックで書き換えたり
前作の映像で尺を稼ぐようなことをしてきたが、ここにきて予算切れ。
見事としか言いようがない。
話の途中でも、予算が無いと映画を終わらせる英断。
監督がわざわざ出てきて、これは映画なんだと認識させる手法。

予算が無いので映画は作れない。
しかし、ジョージ・クルーニーが提案する。
「この飲み物は良くわからないメーカー物を勝手に使っているが、タイアップをして”広告費”をもらえばいい」

そう、映画を作るにはスポンサーの商品を紹介してお金を出してもらう。
実によくできている。
その通りなのだ。

ヒーローの活躍を描くには、玩具を売ればいい。
玩具を売るには、商品を劇中で紹介するのだ。
こうして、スポンサーを募り、映画を再開する。

ピザ屋の中にペプシのマークがある。
突然ニンジャが襲ってきても、ケロッグの商品は見やすいように配置する。
博士の白衣にもスポンサーロゴ。
博士の屋敷前にもロゴが入る。

ステマなんてくそくらえ。

こちとらダイレクトマーケティングじゃい!

●物語はクライマックス、怒涛の伏線回収

そして、物語は進み、チャドは博士の実験を知る。
恐ろしい実験を知ったチャド。
タラに博士の事を知らせようとするが、タラがトマト人だと知ってしまう。
急転直下にさらわれるタラ。

マットと二人で救出に向かう。
ホンダのバイクで。
スポンサー商品の紹介中に、商品説明が長い!と監督に予算の確認をするチャド。
スポンサー費用で潤った映画スタッフは女はべらしている
普通なら、スポンサー商品を紹介しまくるという部分で、ギャグとして満足するのに、
登場人物にいい加減にしろと怒らせて、予算が十分すぎるくらいあるから話を進めさせる
見事なオチだ。

博士の、トマトを人間に変える装置を知る二人。
トマトに音楽を聞かせると、グラマーな美女やムキムキマッチョマンに変化させれるのだ。

なんやかんや話は進み、前作の悪党が捕まっている刑務所での決戦が始まる。
タラが毒ガス室につかまり人質となる。
このスイッチを入れれば一巻の終わりだと脅す博士。
どうやってこのピンチを乗り越えるのか、緊迫の瞬間。
刹那、ガス室横に備えられた電話が鳴る。
恐る恐る受話器を取る博士、

「こちら、1ドル映画劇場です。今週のキーワードをどうぞ!」

このタイミングで冒頭の番組のキャンペーンから電話がかかってくる。
完全に記憶から消えていた前フリだ。

それどころじゃないので怒る博士。
しかしその怒号の中にキーワード「THE」が!

コングラチュレーション!!

音楽が鳴り響き、紙吹雪に風船にと当選を祝う演出。
皆がポカンとしてる隙をついて博士を取り押さえる。

まさか過ぎる展開。
マットも何が起きたのか・・・と、そこに落ちてくるピザ生地。
冒頭で落ちてこなかったヤツだ。
完全に忘れてたであろう冒頭のしょーもないギャグをここで一斉に使うのだ。

事件は解決し、物語は大団円を迎える。
今回の戦いで、FTも大活躍し、トマトにも良い奴はいると証明された。
劇場の売店ではFTの人形も販売されている。クリスマスプレゼントには最適だ。
唐突に劇場限定グッズの宣伝まで紹介する。
劇中でこんな活躍をしたキャラクターグッズは当然欲しくなる!
実際に発売されていたかは知る由もないが、そうだろう?
映画で大活躍を見ると、その仮面ライダーのアイテムが欲しくなる。みんなもそうだろ?
プレバンで告知があったらすぐ予約してしまうだろ?

チャドとタラの旅立ちを見送るフィンレター。
マットは博士の装置を壊しに行ったという。

めでたしめでたし。

場面は変わって、ビーチ。
マットはトマトを美女に変えて、ハーレム状態
聴き覚えのある音楽が鳴り、タイトルが表示される

「トップレス・トマト」

そう、冒頭のちょいエロ映画すら、オチのための伏線だったのである。
すっかり記憶から消えていたであろうしょーもないギャグをまたここで思い出させるのだ。

 

●〆

冒頭のしょうもない事をオチまで昇華するこの構成力と、ベタでバカなギャグでカモフラージュしきるこの作品は
はたして本当に単なるバカ映画なのだろうか?

同じように、以降様々なバカ映画が生み出されるが、ただ”そのギャグをやりたいだけ”の映画な気がしてならない。
だが、この、「リターン・オブ・ザ・キラートマト」はそのギャグをやるための入念な準備があり、上辺にあるバカ映画で巧みに構成されているとは思えないだろうか?

少なくとも、設定はバカげているしギャグは下らないが、物語としての筋はしっかりしているし恋物語としては成立している。
エンターテイメントの起承転結は茶化すことなくしっかりしているとは思える。

この、全編を通して行われる
くだらないギャグと、ナンセンスギャグ。
メタフィクション構造を巧みに駆使する物語構成。

決して「バカ映画」だけではない、「リターン・オブ・ザ・キラートマト」是非一度その目で確認していただきたい。